伐株山の童話2

次の日もいい天気、こびきさんたちがくすの木の根元まで来て見ますとおどろいたことに、昨日の夕方、暗くなるまで汗を流して切ったその切り口が見つかりません。あまりの大木だから切り口をまちがえたのかと、くすの木を一まわりしてみましたが、やっぱり切り口は見つかりません。しかたなくこびきさんは昨日切り始めた場所と同じところをまた力を合せて切りました。
三日目、四日目、五日目もその次の日も、切り口は見つかりません。せっかく昨日あんなに汗びっしょりになって力いっぱい切ったのに、その切り口は消えてきず一つついていません。こびきさんたちはがっくりと力を落してしまいました。
そんなある日のこと、身のたけ九百しゃくもある大男が里にやってきました。そしてこびきさんたちに、「お前たちがいくらきろうとしてもそれは無理だ。私にまかせるがよい。私が見事このくすの大樹をきり倒してあげよう。」と大男はみじたくをととのえると、大きなおのでくすの大木に立ち向い、自分のひざの高さに合せて、カチン カチンとおのをふりおろしました。ところが不思議なことに、大男がいくらかいりきをふりしぼっておのをくすの大木に打ち込んでみきを削り落しても、翌朝には削られたみきの場所が元通りになって直っておりました。
「これはいったいどうしたことじゃ。」
さすがの大男も困りはてて大きなおのを投げ出し、思案にくれていました。するとくすの木の上の方からスルスルと降りて来たものがありました。
それはいつも『クサイ クサイ』とくすの大樹に笑われ、いためつけられているヘクソカズラの精でした。ヘクソカズラの精は大男に向っていいました。
「私たちはいつもこのくすの木にまかりついていて、くすの木からようぶんをもらって生きています。ですからくすの木が傷をつけられると、いつものごおんがえしに私たちはすぐ汁を出して傷口にぬり、傷口をなおしていたのです。ところが私の出す汁がくさいと言ってこのくすの木が笑ったり、嫌がったりするのです。このくすの木がこんなに小さい頃からずいぶんとかわいがってあげ、私がくさいおかげで虫もつかず、病気にもかからず、台風に傷ついてもすぐになおしてこんなに大きくなったのに、そのおんも忘れて私のことを『クサイ クサイ』と嫌がっています。あまりのおん知らずに、私は腹を立てています。そう、私がひでんをお教えしましょう。毎日きっただけのきくずを焼きすててしまえばよいのです。」とヘクソカズラの精は教えてくれました。
更新日:2021年04月01日